E'b vol.135
vol.135 美しい所作
十数年前のことです。開業を決心した私は、「意中の人」からの勧めもあり日商簿
記三級の取得を目指すことにしました。そこで休日を利用して私は、ビジネススク
ールに通うことになったのです。そんなある日教室でふと顔を上げると、ガラス越
しにトイレのドアを閉める、スタッフさんの姿が目に映りました。「腰骨を立てた
正しい姿勢」でクルッと振り向き、両手をノブにソッと添える「美しい所作」に、
私は心地よい違和感を感じました。教室まで音が届くことはありませんでしたが、
そのとき廊下には、静寂の中にカチャッという建具の音だけが響いていたはずです。
「所作」という言葉は、英訳する事が難しいので日本独特の文化といえそうですが、
この「所作」は「仕草」とは異なり、立居振舞や身のこなしという意味があり、物
を取る、椅子に座る、歩くなど、日常の動作すべてに通じます。あの頃の私は、そ
んなことを考えたこともありませんでしたので、突然目に飛び込んできた「美しい
所作」に違和感を感じたに違いありません。
自分という豊かな「作品」の完成を目ざす。良好な雰囲気を身につけた、人として
の「品」を作りあげていく。人生の充実は、そうしたところに感じられるのではな
いでしょうか。 (月刊素心第222号「良好な雰囲気を身につける」 より)
立居振舞など意識したことがなかった私ですが、あの日を境に「余計な物音は立て
ない」ということに敏感になりました。職場においては、カーテンの開け閉めの際
にシャーッという音がしないように、螺旋階段の上り下りに ダダダダッと音を立て
ないように、蛇口の水流はエンピツ一本分にしてジャンジャン出さないように、意
識しています。まだまだ決して完璧ではありませんが10年取り組むなかで、意識
を変えれば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変
わるということを、実感することができました。これからも良好な雰囲気を身につ
けるために、率先垂範を継続してまいります。ありがとうございます。
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