E'b vol.133


vol.133  恩を送る


スタイリストデビューして初めて担当したお客様の顔を、今思い出すことはできませ

んが、そのときの緊張感は25年たった今でも、はっきりと覚えています。お客様を

担当し始めた当時は、震える手つきを悟られないように、明るく振舞うことでなんと

か仕事をやり遂げ、約束のヘアスタイルを作れなかった自分自身を、毎晩責める日々

を送っていました。私が身を置く美容業に限らず、外科医の方の初執刀、パイロット

の方の初フライトなども含め、その際に人知れず「一人目」になってくださった方の

おかげで、現在の自分があるということを忘れてはならないでしょう。また同時に、

後輩が抱く夢を心から応援し、チャンスを与え見守ってくれる先輩の計らいがあって

こそ、私たちは成長することができるのです。とてもありがたいことです。だからこ

そ職場における、上司と部下の人間関係については「かけた情けは水に流せ、受けた

恩は石に刻め」という言葉のように、清々しくありたいものです。

「懸情流水 受恩刻石」  他者にかけた情け(与えた恩)は水に流して忘れるべき。

           他者から受けた恩は心の石に刻みこんで忘れてはならない。

ブレスではお客様一人に対してスタイリストが最初から最後まで専属で担当する「マ

ンツーマン型」ではなく、スタイリストの経験に応じて、同時に複数のお客様を担当

する「マルチタスク型」で営業しています。そこでブレスのスタイリストには、現場

でアシスタントが失敗しないように、伝えるべきこと(人間性や専門性について)を

あらかじめ丁寧に伝えておくこと、スタッフとの人間関係を良好に保つこと、が求め

られます。どちらも容易なことではありませんが、仕事をしてもらって当たり前、与

えてもらって当たり前となりがちな気持ちを戒めて、お互いが「ありがとうございま

す」そして「いえいえ、どういたしまして」という感謝を忘れないことが肝要でしょ

う。そうして先輩から受けた恩を「恩返し」する気持ちも大切ですが、それ以上に後

輩は新たな先輩として、次の後輩に対して恩を送る「恩送り」の社風を築くこと。そ

れがブレスの経営者として私の役割に違いないでしょう。ありがとうございます。

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