E'b vol.191

vol.191 腰骨を立てよう


子供の頃から私は母に「姿勢よくしなさい」と言われ続けてきました。言われ続ける ということは、いつまでも正すことができなかったからです。そうして大の大人にな った、四十を過ぎたある日もまた私は「あんた、幽霊みたいな格好しなさんな」と母 から注意されました。そのとき「幽霊ってどんな格好かな」と思い鏡で確認してみる と、私は背中を丸めて両手を体の前にぶら下げていたのです。その姿を見て「なかな か上手いこと言うなあ」と感心しましたが、「流石にこれはまずいな」と危機感を覚え たのです。そのことがきっかけとなり、私はようやく自分の姿勢を本気で意識するよ うになりました。すると「今までなぜ気がつかなかったのだろう」と思うくらい、ふ と鏡に目を移したそのときに、いつもそこには「幽霊の私」がいるのです。 



 幽霊に三つの特徵があるという。オドロ髪をうしろへ長くひいている。両手を前へ出 している。足がない。この三つを云うというのである。オドロ髪をうしろへ長くひい ているというのは、済んでしまってどうにもならないことを、いつまでもひきずり続 けることを意味する。(中略)「両手が前へ出ている」というのは来るか来ないかわか らない未来を、「ああなったらどうしよう、こうなったらどうしよう」と、とりこし 苦労していることを意味する。「足がない」というのは、生きているということは「 今、ここ」でしかないのに、心が過去へ未来へととんで、肝心な今ここをとりにがし ている姿をいうのである。(月刊致知2024年12月号) 



 「腰骨を立てた正しい姿勢」を意識するようになって十年以上経ちました。おかげさ まで現在の私は、以前のように母から注意を受けることはありません。私たちの心の クセは、姿にあらわれるものです。座ったとき、立ったとき、歩いているとき、その 姿に心がうつし出されてしまいます。だからこそ、これからも腰骨をスッと立てて心 に一本スジをとおした「正しい姿勢」で生きていきます。               (※オドロ髪【棘髪】手入れをしないためにボサボサになった髪)

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