E'b vol.154
vol.154 柔 弱
のびのびと育ててくれた温厚な両親のおかげで、私は今も昔も家庭や職場における
人との関係において、「悩みの少ない人生」を歩んできました。家で怒られた記憶
はなく、人生の節目にいつも背中を押してくれた両親にとても感謝しています。た
だ生前の父には、数年間アルコール依存症で大変な時期がありました。しかし「断
酒友の会」との出会い、また何より母の支えにより依存症を克服することができた
のです。アルコール依存症はとても怖い病気で、入退院をする人のうち、断酒に成
功する人はおよそ20%という統計です。今となっては家族の笑い話ですが、その
数年間は壮絶な毎日でした。炊飯器が窓の外に飛んで行ったり、畳に包丁が突き刺
さったりしていましたので、布団の中で「朝起きたら、この世の中から酒さえ無く
なってたら」と悔し涙を流した夜もありました。そんな苦しい時も含めて、ずっと
家族を支えてくれた母は、私が小学生のころから生命保険の外交員として働き、昨
年四十年勤めた会社を退職しました。数字が求められる世界で、人との信用信頼を
築き上げることで七十四歳まで勤め上げたのです。そして先日家族で退職のお祝い
をした際に、母は引き出しから「断酒友の会」の会報を取り出してきました。
お陰で私も、このようにして飲まない状態が続いております。女房には感謝の毎日
です。口に出しては言いませんが、心のそこから感謝しております。何よりも家庭
円満には女房の意見を尊重して行くのがいいと思います。ですから、何を言われて
も、私はハイハイと頭を下げております。頭はなんぼ下げても減るものではないし
家庭内のことですから、これからも頭を下げ続けて、笑いの絶えない家庭にして行
きます。 「断酒松ケ枝」第522号(平成16年7月例会 体験発表より)
『老子』には「柔弱」という考え方がよく出てきます。人はやわらかく生まれて、
硬くなって死ぬ。植物も同じ。一見強そうなものはもろくて、やわらかくて弱そう
なものが生き残るのが道理ということです。私も父が大切にした思いを繋いで両親
に負けないような明るい家庭を築いてまいります。今年もよろしくお願いします。
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