E'b vol.151





vol.151 自我の意識


修行時代に「男気のある」後輩がいました。ある日その後輩が、先輩から仕事のミス

で注意を受けていました。その際に彼は、「はい、わかりました」と、言い訳を一切

せずに先輩に頭を下げました。しかし後に明らかになったのですが、実はミスの原因

は彼ではなく、さらに後輩の新入社員にあったのです。私はそれ以来「器の大きいヤ

ツだな」と彼に一目置くようになりました。人は他人から指摘を受けた際には、つい

つい反射的に「私じゃありません」とか「知りませんでした」と自分を守ろうとする

ことが多いように思います。以前の私もそうでした。若い頃にシャンプーを教わる際

に、出来ないことを指摘されると、私は「いや」という言葉と共に、出来ない理由を

主張していました。そして先輩は「いやっち言うな」と繰り返し私に言い聞かせるこ

とで、学ぶ姿勢を正してくださったのです。このように無意識のうちに自分を守ろう

としたり、自分さえよければと考える心のクセを「自我の意識」といいます。

「自我の意識」は、そのままにしておくと、だんだんと自分の陣地を広げていき、ほ

かの人の領域にまではいりこもうとします。そこで他の「自我」との衝突が起きます。

個人レベルではケンカや言い争いですみますが、国家や民族のあいだでは戦争となり

ます。                 『素心学要論』(モラロジー研究所)より

当時の私はこのような「心のクセ」が自分にあるとは思いもしませんでした。しかし

現在人に伝える立場になってみると、同じことを伝えても「はい、わかりました」と

素直に受け入れる人もいれば、「いや、そうは言うけど」と逆らう人もいます。それ

ぞれの思い方により、言動が左右されるからでしょう。人が生きていくうえで、どち

らが周囲の人から支持されるかは明らかです。だからこそ、この「自我の意識」とい

う心のクセを正しくコントロールして、正しく思い、正しく行動することで、幸せな

人生を歩んでいきたいものです。次回は、もうひとつの心のクセである「業の意識」

をお届けいたします。ありがとうございます。

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