E`b vol.140
vol.140 恩を送ろう
娘さんの結婚式のために、着付けとヘアセットで来店されたのは一年ほど前のこと
です。久しぶりにお会いしたそのお客様は、ご自身で着付けをされるほど、和装を
日常的に楽しまれています。そして人生の節目に娘さんと一緒にお洒落をして、お
祝いする事をとても大切にしているそうです。お宮参りのために来店いただいたそ
の日は、一年前の結婚式の写真を笑顔で私に見せて下さいました。その際には、衿
のバランス、衣紋の抜き具合、裾合せ、おはしょり、それぞれのポイントをキチン
と押さえた仕上がりだったという旨の、お喜びの声を頂戴しました。そこで一年前
に着付けを担当した家内に、この度も着付けの御指名をくださったのです。その理
由を私は次のように伺いました。「あの方の着物を扱う手つきからは、着物を大切な
モノとして扱う姿勢が伝わってくる。だから、あの方に着付けてもらいたい」とい
う事でした。
心のクセは、表情、語調、動作に現れていますが、それが正されてきますと、おの
おのがやわらかくなり、全体の雰囲気がやわらいできます。 「素心学の定義」より
30年近く前のことですが、修行先で初めて着付けの手ほどきを受けた際に、練習用
の着物を無意識にまたいだ家内は、先輩から「着物は大切な物。絶対にまたいだら
いけん」と厳しく叱られたそうです。技術や知識としての「専門性」のみに留まら
ず、人から好かれるための「人間性」に至るまで、先に生まれて経験を積んだ先輩
が、正しく導いてくださったおかげで、私たちは育まれてきました。この恩恵を自
分自身の「飯の種」にして生きていくことは結構なことですが、それだけでは不十
分に思えてなりません。これからは世代責任として、私自身が次の世代の方に対し
て大切なことを伝えていくことで、「恩を送っていこう」と思います。ありがとうご
ざいます。
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